第6章「びしょぬれの迷い犬 」

1.

「あー……」
暗示郎が、溜息まじりに声を漏らした。
食べようとしたピッツァの一片を取り落として、バジルソースを服にべっちゃりとつけてしまった。
少し迷ったが、もったいないので膝の上のピッツァを拾ってぱくぱくと食べた。
「洗濯ついでに、行水してくるねー」
「気をつけろよー」
席を立った暗示郎に、オロカが声をかけた。
 
 
 
「あれ?」
蔓を編んで作った籠を片手に歩いてきた暗示郎は、声をあげた。
湖のほとりに、暗示郎より少し年下ぐらいの小柄な若者が、びしょ濡れになって倒れていた。
小綺麗な顔立ちは中性的で、男にも女にも、どちらにも見えた。
小走りに近づくと、その全身を濡らしている水は透明な湖水ではなく、見覚えのある黒ずんだものとわかった。
「沼から出てきたばっかかぁ。女の子かな? 野郎かな?」
暗示郎は、服装を観察した。
上は紺色のスエットに、下は膝の少し破れたジーパン。
どちらかといえば男物寄りだが、活動的な女性なら、着てもおかしくはないものだった。

「とりあえず……ほっとくと、腐っちゃうって話だったよね。失礼しまぁす♪」
暗示郎は、楽しげにスエットを脱がせた。
「……ちっ、惜しい」
若者の胸は、平らだった。
「まぁ、しょうがない。僕が行水するついでだ、野郎でも洗ってやるよ。
あぁあ、女の子だったらなー、ムフフなのになー」

暗示郎は焚き火を起こし、洗った服を乾かした。
しばらくして、バスタオルを被せられて横たわっていた若者が、もぞもぞとだるそうに身を起こした。
「あ、目ぇ覚めた?」
「……」
若者は、ぼんやりと周囲を見渡した。
「僕、暗示郎。君は?」
「……エラー」
「そう、エラー。ここがどこかわかる?」
「……」
若者──エラーは問いには答えず、しくしくと泣き始めた。
膝を抱えてうずくまり、時折、嗚咽で肩を震わせる。
「ねぇ」
「……ひ……一人に、なっちゃった……」
涙の粒が、あとからあとからエラーの頬を伝った。
「……」

可哀想だな、と同情しかけた暗示郎は、はっとうなじの毛が逆立つような感触を覚えた。
エラーが一瞬、ちらっと自分の顔色を伺ったのに気づいたのである。
……泣きマネ?
いや、半分無意識かもしれないけど、僕の同情引いて、利用しようとしてる?
暗示郎は、げんなりとした。
湧き上がりかけていた同情心は、潮が引くように一気に覚めてしまった。

……お人好しの上、つくしんぼうなオロカなんか、めちゃくちゃ危ないな。
こいつに、骨の髄までしゃぶりつくされかねないや。
僕らは別として、普段あんまり深く人と関わらない三郎も、意外と危ないかも。
ちょっと、嫌なものを嫌ってはっきり言わないとこあるから、ずるずる居座られたりして。
最悪の場合、こいつを残して三郎の方がフラッと居なくなっちゃうかも。
……冗談じゃない。
せっかく放浪癖の三郎が、いろいろ事情があるとはいえ定住を選んでくれたのに。
こんな奴に、巣をのっとられてたまるか。
だいたい、キャラが被るんだよ、キャラが。
この四人の中じゃ、ドグマが長男、三郎が次男、オロカが三男でさ、僕の"可愛い末っ子ポジション"が危う……いやいや!
確かに僕は、主にオロカのアレなところを利用して、苦手な力仕事から免れてるようなところはあるけど!
ちゃんと、おだてていい気分にさせてやったりとか、餌付け──じゃなかった、美味しい御飯を作って喜ばせてやったりとか、利用されてもあげてるもん! フィフティ・フィフティだもん!
僕達が"利用し利用される"輪の中で生きてるのに、こいつに横から一方的にオロカ達を餌にされたらたまんないよ!
……そう、これも一種の"テリトリーの侵害"って奴だよ!
目が合っただけといえば合っただけなのだが、暗示郎の危機感は急加速して行った。

「……一人になっちゃったから、何なのさ……?」
「……」
エラーは涙目をこすりながら、上目遣いに暗示郎を見た。
もじもじとした後、言葉を選ぶように途切れ途切れに、口を開いた。
「ぼ……僕は……弱いから、一人じゃ、生きてけない……」
「……で?」
「……」
「……」
沈黙が続き、暗示郎はイラッとした。
……だ・か・ら・何・さ!
せめて、"何でもするから、ここに置いてください"とか何とか言って、頭下げなよ! 媚びなよ!
嫌なの? そう言ったら、せっせと働かなくちゃいけなくなるのが、嫌なの?
言ったとしても、実際には見られてないところで手を抜いたり、うまく先輩をおだてて乗せて楽したり、いろいろやり方はあるんだっつーの!
それとも、何? 僕の方から"じゃあ、一緒に暮らそうよ!"って快く申し出るのを待ってるワケ?
「……あ、そう。僕も弱い。他人を抱えて生きてけるほど、強かない。
だから……今すぐ、出てって!
まだちょっと生乾きだけど、服も乾いたから、着る! 早く! さぁ!」
ツリーハウスのある方向とは違う森の奥を指差し、有無を言わせぬ口調で暗示郎は言った。
「えぇ……ぇ」
気弱げな声を漏らし、エラーは心細そうに胸の前でぎゅっと自分の指と指を絡ませた。
「……正直なところ、一宿一飯くらいならくれてやらないではないんだけど……
心が揺らぎそうになるのを、ぐっと暗示郎はこらえた。
……駄目、駄目! 一宿一飯で済まなくなりそうなのが問題なんだから!」
オロカ達が、"帰りが遅いから心配したぞ"とか言って来ないうちに、追い出すのが無難……
「おーい、暗示郎。どうしたんだ。帰りが遅いから心配したぞ」
オロカの野太い声がした。
「わぁぁ、もう来ちゃったぁ!」
暗示郎は、頭を抱えた。
 
 
 
「暗示郎、そいつは?」
オロカが、刀を担いで首を傾げていた。
少し遅れてドグマと、彼に歩幅を合わせてゆっくりと歩いている三郎の姿も見えた。
……見られちゃった以上、さすがにこのまま放り出すとか、オロカは納得しないよね。
だったら……
暗示郎は素早く頭の中で計算すると、何か言いかけたエラーに先んじて口を開いた。
「あのね! この人、エラーっていうんだけど、沼から出てきたところなんだ!
で、『一晩だけ』泊めて欲しいんだってさ!」
一晩だけ、を強調して暗示郎は言った。
最初から期間を区切っておいた方が、すみやかに追い出しやすいと考えたのである。
「……?」
突然の譲歩に、エラーは目をしばたたかせた。
しかし、標的を変えたかのようにオロカをチラチラと見上げながら、哀れっぽい口調で言った。
「一晩、だけ……その後は? 僕、こんな電気もガスも無い森の中で、一人でどうしたらいいの……?」

「……っ」
オロカは、ぐらっと胸の奥の何かが揺るがされるのを感じた。
「あ……暗示郎。なに、ツンケンしてるんだ?
別に、一晩だけと言わず、落ち着く先が決まるまで置いてやったっていいんじゃないか?
沼から出てきたばかりなら、疲れてるだろうし。それとも、なんだったら……」
……ドグマ達はどうか知らないが、少なくとも俺は、ずっと居させてやってもいいと思うけど。
そう言いかけたオロカの言葉は、暗示郎の「だぁぁぁぁぁぁ!」という呆れ混じりの叫びにかき消された。
「知ってはいるけど、何だって君はそう、人がいいのさ!
君は、カモにされてるんだよ、カモ! こいつは、君の尻の毛までむしってやろうと考えてるんだよ!」
「会ったばかりなのに、何でそんなこと言えるんだ?」
「会ったばかりだって、わかるものはわかるんだよっ! 僕には、わかるの!」
「……なんでだ?」
「知るもんかァ! 同族嫌悪とかじゃ、絶対ないんだからね!」
「同族……?」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、この、お馬鹿ァ!」

「……暗示郎にしては、珍しいですね」
キーキーとヒートアップして罵っている暗示郎の言葉を聞きながら、三郎はじっとエラーを観察した。
エラーは、暗示郎に気圧され口をつぐんでいた。
が、そうでありながらも視線を巡らし、この場の決定権を誰が握っているのか探っているようだった。
……なるほど。暗示郎の読みは、正しいのかもしれません。
三郎は、密かに警戒心を強めた。そして、ちらっと傍のドグマを見下ろした。
……ですがまぁ、隠すような事でもありません。この程度の情報はくれてやりましょう。
三郎はそう決めると、問いかけた。
「どうなさいますか、兄上」
「……兄?」
エラーは小首をかしげた。
「おぉ、兄だ、悪いか。どう見えるか知らんが、こいつは私の弟だ! 悪かったな!」
憤然とし、胸をそらしてドグマは言い放った。
「……」
三郎にとっては、大声で"私の弟"とか言われる事は、気恥ずかしくもあり、少々嬉しいような気もする事であった。

「一晩、だな。そうしたいのなら、それだけ置いてやれば良かろう!」
話はそれで終わりとばかりに打ち切って、ドグマはくるっと踵を返し、元来た方へと歩き始めた。
「……だ、そうです。いいですね、エラーさん。オロカも」
「……」
エラーは助けを求めるようにきゅっと眉を寄せて三郎を見上げたが、彼は素っ気なく視線をそらして無視した。
エラーはしぶしぶと、生乾きの衣服を身につけ始めた。

「あーぁ、今日は僕がゲームマスターやろうと思ってたのに……」
……疫病神拾ったおかげで、予定まで滅茶苦茶だよぅ。
暗示郎は、頭の中で続けた。
「おまえ、『ソード・ワールド』って奴、やった事あるか?」
オロカの問いかけに、エラーはこくんと頷いた。
「暗示郎。だったら、同じくらいの経験点足して、ゲストキャラ作らせて、入れてやればどうだ?」
「……君って、どうしてこういう時に限って、フレキシブルな発想するわけ?」
暗示郎の言葉に、オロカはきょとんとして言った。
「そうか? ありがとう」
「褒めてないよ! この、お馬鹿!」

 

2.

「できたけど……」
「どれどれ」
暗示郎は、エラーがおずおずと差し出したキャラクターシートを見た。
「エルフの精霊使いか。パーティバランス的にはいいね。……んんっ!?」
暗示郎は、思わず固まった。"性別"の欄には"女"と書かれていた。
「君……『ソード・ワールド』やった事あるっていうのは、もしかしてネットで?」
「う、うん」
「……そう……ふーん」
暗示郎は内心、呆れた。
……ネットでは男が女性キャラやるってのも、ごく普通にやられてるし、僕もやった事あるけど。
でも、オフライン・セッションでやるかねぇ……よく、恥ずかしくないなぁ。
それともまさか、アイドルの座を狙ってるわけじゃないだろうね?
 
 
 
「それじゃエラー、君のキャラの自己紹介よろしく」
成長の申告などが一通り済んだ後、暗示郎は促した。
「えと……名前はエリノア・ルーシィ・ミルキーウェイ、通称エリー。
エルフの女の子で、技能はシャーマン3レベル、セージ2レベル、レンジャー1レベル。
髪は長い銀髪で、目は右が青で左が赤。
ある部族の族長の娘で、何不自由なく暮らしていたんだけど、森に迷い込んできた人間の王子様と恋に落ちて。
でも閉鎖的で人間との交流を絶っている部族だったので、王子様は殺されちゃった。
部族に復讐しようと、力をつけるため森を出て冒険者になった。
けど、経験を積むうちに復讐は何も産まないと悟り、復讐を諦めた。
それからは、何をすればいいのかわからなくなってる。……で、今に至る」
「……はぁぁ」
暗示郎は頭を抱えた。
……なんちゅう、厨二設定。
オロカはポカーンとし、三郎は苦笑を浮かべていた。
「……何なのだ、それは?」
ドグマが、いぶかしげに尋ねた。
「何って……キャラ設定」
「あぁ、えっとねぇ……」
暗示郎は気を取り直し、説明を始めた。
「ほらさ、キャラ作る時、ちらっと三郎が君らに言ってたじゃん。
『始めてですし、あまり演技とかは考えずに、素でいいですよ』って。僕も、合わせてそうしたけどさ」
「あぁ……そういえば言ってたような気がするけど、意味が良くわからなかった」
応じたオロカに頷きかけ、暗示郎は先を続けた。
「ん。戦士は戦士の役割を、魔法使いは魔法使いの役割を演じる、それを『ロールプレイ』っていうんだけど。
それとは別に、どういう生い立ちがあって、どういう性格してるかって決めて、それに基づいて行動するのを『キャラプレイ』って言うんだよ。
たぶん三郎は、君やドグマがそういうの苦手だろうとか、好きじゃないだろうとか、思ったんだろうけど」
「……それに、ことさら『キャラプレイ』などせずとも、兄上もオロカも素で十分濃いですから」
「濃いとは何だ、濃いとは」
「薄いと言われるよりは、いいでしょう?」
「……まぁな」
「やった方が良かったのか?」
「いや、別にやらなくたっていいんだけど。『ロールプレイ』の方が大事だし」
「やる必要が無いものを、何故やるのだ」
「やりたい人はやればいい、としか言えないなぁ」
暗示郎は、ドグマに肩をすくめて見せた。
エラーは、ちらちらと皆の顔色を伺いながら言った。
「そう、かな……『キャラプレイ』入れないと、せっかくRPGやる意味ないと思うけど……」
「……そういう人もいるね。まぁいいや、始めようか」
 
 
 
「いくつかの冒険をこなして少しは名が売れてきたのか、御指名で依頼が入ったよ。
依頼主はある貴族の当主の息子で、屋敷まで来て欲しいんだって」
「ちょっと嬉しいな、それ」
「貴様が来い、と言いたいところだが」
「まぁ、貴族の若様が庶民の出入りする『冒険者の店』に、直接来たがりはしないでしょう」
「ふん、お高くとまりおって。まぁいい、行ってやろう」

「応接間に通されて、執事さんが淹れてくれたお茶を飲みながら待っているとね。
しばらくして、お金がかかってそうな服を着た、20代半ばくらいの青年が入ってきたよ。
『私の名はクリストフ。君達の活躍は耳にしている』」
「いや、そんなたいしたことは……えへへ」
「ニヤけるな、馬鹿者。堂々としておれ」
「『実は、婚約者のヴィオレッタが化け物に攫われた。化け物を倒し、彼女を取り返して欲しい』」
「そりゃあ、たいへんだな。無事だといいけど……」
「攫われた時は、どういう状況だったのですか?」
「『結婚式を挙げようとしていた時、突然、ヴィオレッタの家の用心棒だった男が乱入してきたのだ』」
「用心棒……だった、と言いますと?」
「『既に、解雇されていた。
原因は、ヴィオレッタがその男の馬に乗せてくれとせがみ、そいつが断りきれずに乗せたところ、馬が急に走り出して落馬、結果的にヴィオレッタに怪我を負わせた事』」
「それって……用心棒がというより、むしろその御嬢様が悪いんじゃないのか?」
「いや、駄目だろう。
たとえ主家の者の頼みであろうと、馬を御する能力が無いと解っているなら、断固として断るべきだ」
「そうですね。どうしても断れないなら、せめて一緒に乗るべきでしょう」
「それも、そうか……」
「……?」
暗示郎は、首を傾げた。
……エラーは、なんで喋らないんだろう。
あの御大層なキャラ設定は何だったのさ。緊張してんのかな?

「『乱入してきた元用心棒──ギースという名だが、そいつは見る間に全身に剛毛を生やし、獣の姿に変わった。
護衛の者が斬りつけたが毛ほども傷つけることはできず、悠々とヴィオレッタを奪い、服をくわえて引きずって逃走した』」
「ライカンスロープでしょうか。詳しい特徴を聞けるなら、怪物判定をしてもいいですか?」
「うん」
三郎がサイコロを振り、次いでエラーも振った。
「達成値は、10です」
「……14」
やっと喋ったよ、でもみじかっ!と思いながらも、暗示郎は続けた。
「それじゃ、エラー……じゃなかった、エリーはわかった。ライカンスロープの一種、ワータイガーだよ」
「ライカン……何だった、それ?」
オロカに問われ、暗示郎は栞を挟んであったルールブックを開いた。
「狼男ならぬ虎男だよ。詳しくはデータを見てね」
「ふむ」
ドグマが、ルールブックを横から覗き込んだ。
「通常武器無効、か。護衛に傷つけられんわけだ。
だが、我々なら『エンチャント・ウェポン』や『ファイア・ウェポン』の魔法で対応可能だな」
「そうですね」

「ところで、何故ギースという男はおまえの婚約者を攫ったのだ。
解雇された遺恨か? それとも、身代金でも要求してきたのか?」
「クリストフは、少し躊躇するような様子を見せた後、言うよ。
『元同僚の証言によると、どうもヴィオレッタに横恋慕していたらしい』」
「ほう。略奪愛か」
ドグマは、どこか楽しげに言った。
「……まさか、その御嬢様の方も好意を持ってたなんて事は、ないよな?」
オロカの問いに、暗示郎は小さくニヤッとした後、真顔に戻して言った。
「クリストフは憤慨して言うよ。
『そんなわけがないだろう! 下賤な用心棒ごときに!』」
「す、すまん……」
「くくっ、仮に合意の上での駆け落ちなら、いい気味だな。
──おっと、これはプレイヤーの感想だぞ。キャラの発言ではないぞ」

「さておき、ヴィオレッタ嬢とギースの外見特徴を教えてください」
「『ヴィオレッタの肖像画がある。ギースのものも、元同僚に似顔絵を描かせておいた』
そう言って、クリストフは二枚の絵を見せてくれるよ。
ギースはちょっと野性味のある、20歳くらいの精悍な若者。
ヴィオレッタはね、ふわふわの淡い金髪をした、14、5歳くらいの愛らしい女の子だよ」
「クリストフは、確か20代半ばって言ってたっけか? 随分な、歳の差婚なんだな」
「『貴族の間では、この程度、普通の事だ。私の両親も、10歳以上離れている』」
「まぁ、貴族の婚姻に政略が絡まない方が珍しいですからね。
それに比べれば、年齢なんてたいした事ではないのでしょう」
「政略って……あの……念のため聞くが、あんたは御嬢様の事、好きなんだよな?」
「クリストフは、しばらく押し黙った後、言うよ。
『今は、妹のように思っている。
しかし、夫婦の愛情というものは、結婚してから時間をかけて築いていけばいいのだ。
夫婦とは、そういうものだ』」
「……いい家の夫婦って、そういうもんなのか?」
「……」
オロカに問われた三郎は、軽く微笑んで見せただけで、何も言わなかった。

「聞く事は、そのぐらいでいいだろう。
現場の検証にあたるとしよう、ギースがヴィオレッタを引きずって逃げたというなら、痕跡は残っていよう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ドグマ」
オロカが制止すると、ドグマはじろりと見上げた。
「何だ」
「いや、ちょっと……
エラー、腹でも痛いのか? さっきから、全然喋らないじゃないか」
「……」
エラーは、困り顔でもじもじとした後、口を開いた。
「……オフラインで女性キャラするのって、難しいね。動かしにくいな……」
ずるっと、暗示郎は大コケした。
「だったら、女性キャラなんてやるなぁ!」
「ご、ごめん……頑張って、喋るから……」
「もー……頼むよ……」

3.

「では、足跡追跡をするぞ。……いかん、1ゾロだ。エリー、おまえやれ」
「わ、わかったわ」
エラーは、くねっと少ししなを作って答えた。
……き、キモい。
暗示郎は、頭を抱えたくなるのを我慢した。
ま、喋らないよりはましか。
「……12」
「わかったよ。えっと、街道の方に獣の足跡と、引きずった跡が続いてるよ」
「みんな、こっちよ。……つけていく」
「はい、はい。道をしばらくいくと、足跡は道を外れて藪を踏み越え、森に入って行く。
一本の木にロープが結ばれたままになっていて、そこからは蹄跡が続いてるよ」
「馬に乗り換えたか。急ぐぞ」

「二日ほどして、街道沿いにある小さな町についたよ。
つけてきた蹄跡は、他の蹄跡や足跡に混ざってしまって、もうわかんない。
町は、宿屋がたくさんある宿場町風。
それだけでなく温泉が湧くみたいで、あちこちにのぼりが立ってたりして、観光地のように賑やか。
お土産物屋さんや、屋台も出てる」
「こんなところに、逃げ込んだのか……?」
「お姉さんが、お盆を片手にやってくるよ。
……『温泉饅頭の御試食、いかがですかぁ〜♪』」
「もらう。モグモグ」
「おい、そこの女。これこれな男女を見なかったか。絵を見せる」
「『あぁ、そんなような二人なら、試食して行ったわよ〜♪』」
「試食? 縛られたり、つかまれたりしてはおらなんだのか?」
「『いや、そんな事は全然? お似合いのカップルだと思ったわよ。
足湯広場の方で、のんびりくつろいだ様子で一緒に歩いてたのを見たこともあるわ〜♪』
……と、場所を教えてくれるよ」

「これは、あれか。やはり合意の駆け落ちか。
事前の合意が無かったとしても、少なくとも現在、嫌がってはいないな」
「ど、どうするの……?」
「あぁ?」
おずおずと問いかけたエラーを、ドグマはじろりと見上げた。
「そうだったとしたら、どうするの? 愛し合う二人を引き裂くなんて、私にはできない……」
「だったら何だ。逃がせというのか? いい気味だとは言ったが、仕事は仕事だ。
ギースは倒して、ヴィオレッタは連れ帰る」
「そんな……かわいそう」
「う、うーん……俺も、やりたくはないんだけど……どうしよう、困ったな」
「うん、そうよね」
「おまえら、それでもプロか」
「まぁ……売り子さんからそう見えたというだけで、まだ確定したわけではありません。
とりあえず、接触してみませんか?」
「……ふん」

「教えられた足湯広場に行ってみると、噴水を囲むようにして小川のようにお湯が流れてて、湯気が立ってる。
たくさんのベンチが並んでて、カップルや家族連れ、お友達同士と思われる人たちが、足をお湯につけて、くっちゃべってるよ。
そんな中、ギースと思われる男が、湯に足をつけるでもなく、つったって噴水を見つめている」
「え、一人か?」
「うん、一人」
「一人ならちょうどよい、回収対象を人質にとられる心配もない。声をかけてみるか」
「皆が近づいていくと、向こうも気がついたようで、顔をあげて振り向くよ。
……『もう、追っ手が来たか』」
「その通りだ」
「『町中で斬り合うわけにはいかない。こっちへ来い』
ギースはそう言って、つかつかと町の外へと歩いていくよ」
「やけに、話がわかるではないか」

「町を出て、森の中へ入ると、ギースは剣を抜くよ。
……『さぁ、来い』」
「変身は、せんのか」
「『変身すれば、正気が無くなる。4対1では、逃げるかもしれない』」
「死にたいのか、貴様は」
「『あぁ、死にたいんだ。もう、わかった。
御嬢様は、望まぬ男との結婚式から、恋しい男に攫われて……
恋人は追っ手に殺され、自分は連れ戻される……
そういう、悲劇のヒロインになりたいだけなんだ。その先の事は考えちゃいないんだ。
だったら、望み通りに死んでやる。それが、せめてもの俺の愛だ』」
「お嬢もだが、相当貴様も酔っているな」
「『あぁ、酔っているさ。それがどうした』」

「ま、待って。殺さなくてもいいじゃない。
そういう事なら、ヴィオレッタだけ連れ戻して、この人は逃がしてやればいいじゃない」
「甘い!」
ドンッ、とドグマはテーブルを叩いた。
「こいつを殺す事も、依頼には含まれているのだ。こいつの首を持ち帰らぬ事には、依頼は成り立たん」
「そうだよな、それがあるんだよな……うーん、どうしよう……
仕事は仕事、っていうのもわかるけど、御嬢様に振り回された被害者を斬るっていうのもなぁ……」
オロカは困り果てて、ぶつぶつと呟いた。

「その前に、ひとついいですか。引っかかっていた事があるのですが……」
「『何だ』」
「ギースさん、貴方はいつからワータイガーになったんです?
ライカンスロープは、同種のライカンスロープに傷つけられた事で感染する、一種の病気のはずですが」
「そういえば、そんなこと書いてあったな。他にワータイガーが居るのかな」
「ギースは頷いて答えるよ。
『御嬢様から"自分を連れて逃げてくれ"と手紙が届いた後、森の中で悩んでいた。
そうしているうち、知らない男から声をかけられて、事情を話した。
男は言った、"力が欲しいのか、だったらくれてやろう"。
男は虎の姿に変身して、襲いかかってきた。俺は心底、力が欲しいと思って、その爪をよけなかった。
虎は俺に一撃を加えると、そのまま去って行った』
ギースはそう言って、胸元をはだけさせて見せる。深く大きな傷跡が、そこには見えるよ」

「『お喋りはもういいだろう。来ないのか。だったら、こちらから行くぞ』
ギースはそう言って、剣を構えるよ」
「うぅーん、やるしかないのかな……」
「……そろそろ、来そうな気がするんですけど」
三郎の呟きに、オロカがきょとんとして振り向いた。
「来るって、何が?」
「えへっ、読まれたかな。町の方から、金髪の女の子が走ってくるよ。
『やめて! この人を殺すのはやめて!』
女の子……ヴィオレッタはね、ギースを庇うように割り込んでくるよ」
ドグマは苛立ったように、コツコツとテーブルを叩いた。
「面倒な事になったな……
おい、女。おまえは悲劇のヒロインぶりたいんじゃなかったのか。この男が、そう言っていたぞ」
「『そう思われてもおかしくはないわね……でも聞いて。
私は、本当にギースに私を連れて逃げてほしかったの。
でも、いざお家を出てみたら、野宿は眠れないし、食べ物はまずいし……
お饅頭は美味しかったけど、そればっかり食べるわけにはいかないし……
だんだん、これからの生活が不安になってきてしまったの。
おまけに、ギースは優しかったけど、男の人とお付き合いするの始めてだったし。
宿に泊まった夜、ギースが私を抱こうとしてきて……
私、ギースが獣のように見えて、恐ろしくて、泣き出してしまったの。
本当に、本気のつもりだったの。でも、やってみたら違ってて……』」
「うん……あるわよね、そういうの……」
「……この、甘ちゃんが」
「『お願い、ちゃんとお家に戻るから、ギースは逃がしてあげて。
ギースは悪くないの。私が子供すぎたのがいけないの』」
「依頼主は、おまえではない。白昼夢の代償を払うと思って諦めろ、この頭ン中砂糖菓子め」
「『そんなぁ……』
ヴィオレッタは、ぼろぼろと泣き出すよ」
「うっとおしい、泣くな!」

「そこへ、ザッと藪をかきわけて、男が現れたよ。
『どうした、ギース』」
「来たか、もう一匹」
「うん。ギースは男に言うよ。
『せっかく仲間にしてもらったのに悪いが、俺はここで死ぬんだ』
男は憤慨して言う。
『なぜだ、見所があると思ったのに!
おまえはもはや獣だ、獣らしく食いたいものを食い、欲しいものを奪って、抱きたい女を抱け!』」
「わかりやすい奴だな」
「『俺は、そういう風には生きられない』
ギースがそう言うと、男は皆に向き直り、牙をむく。
『こいつらが邪魔をするのか、だったら消してやる!』
男の姿は、みるみるうちに獣に変わっていくよ」
「ふん、むしゃくしゃしていた所だ、貴様こそ叩き潰してやる!」
ドグマはフンと鼻を鳴らした。

「ワータイガーは血飛沫をあげて倒れたよ。絶命してる」
「死体はどうなりました? 人間に戻りました?」
「ううん、そのまま」
「兄上、妥協案ですが。依頼上のことは、この首で代用になるのではないですか?」
「あ、そうか。獣の首なんて、見分けつかないよな。いい考えだ」
「私も……それがいいと思う」
三人の言葉に、ドグマははんっと呆れた声を出した。
「どいつもこいつも……好きにしろ!」
「だ、そうですので、まだ生きたい気持ちがあるのなら、どうぞ逃げてください、ギースさん」
「ただし、遠くに行け! 外国にでも行って、二度とこの国に足を踏み入れるな! それが条件だ!」
「ギースは答えるよ。
……『わかった。礼を言う』」

「ギースはヴィオレッタに深々と頭を下げると、何も言わずに背を向けて歩いていく。
その背中にヴィオレッタが声をかける。
『ごめんなさい。そして、私のわがままにつきあってくれてありがとう。どうか、長生きしてね』」
「元気でなー。満月の夜は、人里に近づくんじゃないぞ」
「ヴィオレッタを連れ、ワータイガーの首を持って街に戻ると、依頼主のクリストフは首を確認して言うよ。
『うむ、間違いない』
そうして、一人2000ガメルの報酬をくれる」
「どうやら、ばれなかったようだな」
「セッションはこれで終わり。経験点は1013点。お疲れさまー」
「お疲れー」
「お疲れ様でした」
……いや、もう実際、こんな疲れるセッションは始めてだったさ。
暗示郎は、心の中で呟いた。

4.

石窯オーブンの前で夕食の支度に入った暗示郎は、ふと、ぼんやりと立っているエラーに気がついた。
「君さ、お客様じゃないんだから、手伝いなよ」
「ご、ごめん。何したらいいか、わからなくて……」
わからなきゃ聞くんだよ!と、イラッとしながらも暗示郎は命じた。
「それじゃ、向こうに棚みたいなの見えるでしょ。
あそこに干してある薪を取ってきて。下のは割ったばかりのはずだから、上から」
「……重い?」
「何本ずつでも、いいから!」
「う、うん」
もたもたと、エラーは薪を運び始めた。

三郎は、テーブルを外に出し、次いで椅子を出そうとツリーハウスに戻った。
「ん……?」
外に出ようとして、奇妙な事に気づき、声を漏らした。
木の影がひとつだけ、妙に濃い。
かと思えばスッと薄くなり、隣の影が濃くなった。
……移動している……その先は……
目で追った先で、ドグマが台拭きでテーブルを磨いていた。
「兄上、後ろ! 危ない!」
叫びながら、三郎は椅子を放り出し、宙に駆け出した。
それとほぼ同時、ドグマの影が濃くなり、ずるるっと人の形をした影が立ち上がった。
影は爪をにゅうっと長く伸ばし、ドグマの背へと振り下ろした。

血飛沫が上がった。
「痛ぇッ!!」
半ば体当たりをかますようにドグマを庇ったオロカの背中が、影の爪に大きく切り裂かれた。
おびただしい流血が体をつたい、地面を濡らした。
「オロカ!」
「だ、大丈夫……まだいける! 下がってくれ!」
「……うむ」
案外と素直に、ドグマは後ろに下がった。
「なんなんだ、こいつは!」
「知らん! 魔物だろう」
「なら倒す!」
オロカは刀を振りかぶり、斬りつけた。
影はそれを避けようともせず、肩口で受けた。
「ぎゃあッ!」
悲鳴を上げたのはオロカの方だった。
強い衝撃と痛みが肩口を襲い、血があふれ出た。
「反射攻撃……?」
ドグマが呟いた。
意識を辺りに向けると、この場一面に魔力を感じた。
「何かの結界か……?」

『萌え出ずる生命の息吹、唄えよ若葉の囁きを』
暗示郎が、"軽傷治癒"の呪文を唱えていた。
「待て! うかつに……」
ドグマの制止は間に合わず、詠唱は完成した。
「うわぁぁッ!」
オロカが悲鳴をあげた。
背中と肩の傷から、激しく血潮が噴き上がった。
力尽きて、オロカはばたりと倒れ伏した。
「げっ……失敗、しちゃった!?」
「いいや、違う! こいつが張っている結界のせいだ!」

『我は拒む、我に触れんとする全てを!』
空中の三郎が、"インビジブル・ウォール"の呪文を唱えた。
不可視の壁が現れ、気を失ったオロカにとどめをさそうとした影の爪を弾き返した。
『我は拒む……』
影を不可視の壁で囲ってしまおうと第二の呪文を唱えかけたが、間に合わないと見て三郎は中断した。
影は側面に回り込もうと、素早くダッシュをかけていた。

影は不可視の壁の側面に抜け出ると、猛烈な勢いでドグマめがけて突進してきた。
身構えかけたドグマの前へ、両手に短剣を握った三郎が降り立った。
「三郎、どけ!」
「兄上は……攻撃に専念を!」
影の爪を短剣で受け止め、三郎はドグマに叫び返した。
「前に、立つなんて、柄じゃない、ですがッ……言ってる、場合じゃ……なさ、そう、です、ねッ!」
矢継ぎ早に放たれる両手の爪を、三郎は軽快にステップを踏んでかわし、あるいは短剣で受けた。
呪文を唱える余裕はとても無いが、ドグマが控えている以上、無理をする必要も無い──三郎はそう考えていた。
彼はひたすら、防御に専念した。

しかし、そのドグマも攻めあぐねていた。
……こいつ、これほど護身能力があったのか。それはいいが……どうする?
「さっきみたいに、『壁』で囲えないの?」
暗示郎が、考えているドグマに声をかけた。
「これだけ近距離で交戦している二者の間に、どう『壁』を立てろと言うのだ」
……それに、同じ術でも三郎より発動が遅い故、くるくると変わる立ち位置に着いていけぬ──
──とは、口に出しては言わなかった。
「……とりあえず、推測が正しいか試してみるか……『ゆらめき踊れ、火の粉を散らし』」
ドグマは、"鬼火"の呪文を唱えた。
生じた火の玉を照明として漂わせるのではなく、飛ばして影にぶつけた。
そのとたんドグマの衣服が、ぼっと小さな火を噴いた。
「あちちちッ!」
ドグマは慌てて、火を叩き消した。
「だっ、大丈夫?」
「心配いらん、たいした火傷は負っていない!
見極めのために、わざわざ苦手な元素魔術を使ったのだからな!」

「物理攻撃も攻撃魔術も反射する……治癒魔術は効果が逆転する……
『壁』のように対象が存在しない術ならば、正常に働くようだが……さて、どうするか……」
ドグマは思考を巡らしながら呟いた。
「治癒魔術をあいつにかけるっていうのはダメかな?」
「治癒魔術は一部の例外を除き、抵抗の意思がある相手には効かん」
暗示郎の案を、ドグマは簡潔に却下した。
「やはり、結界を解くしかないか……?
解呪系がまともに働くかわからん上、これだけ広範囲となると詠唱の間、三郎が持つかどうかが問題だが……」
「なら……こうすればいいんじゃ、ないかな……」
「へっ?」
「何?」
暗示郎とドグマが、エラーの声に振り向いた。
どこに持っていたのか、エラーはゴーグルを目にかけていた。
ゴーグル越しの視界で何かが見えているらしく、彼は小さく頷いていた。
そして自分の胸に手を触れると、ずるずるっと刃物を抜き出した。
「なっ、何それ。痛くないの?」
「……ちょっとだけ、痛い」
エラーは、両端に刃のついた長大な大鎌を手にしていた。
「サイズ……? しかも、ダブルブレード……? こいつ、あんな難しい武器を使うのか……?」
エラーは柄から突き出た握りではなく、刃の付け根を握った。
そしてゴクンと唾を飲み込むと、一気に刃を自分の胸に突き刺した。
「え、エラー!?」
エラーの胸から、血があふれ──出なかった。
「シャアァァァッ!」
影が、叫びをあげた。
影の胴体が真っ二つに絶たれ、空中に溶け込むように消えていった。
ドグマが視線をあちこちに向けたが、張り巡らされていた魔力もすっかり消え失せていた。
「……何です?」
影が消えた宙を見つめたまま、三郎が問いかけた。
「倒した……の、だろう。私がではなく、エラーがな」

「エラー……君、強いじゃん。
自力でもその気になれば何とかなるだろうに、どうして他人の力でどうにかしようとするのさ?」
暗示郎が尋ねると、エラーはぷるぷると首を横に降った。
「僕は強くなんか、ないよ……たまたま、そういう敵だったっていう、だけだよ……」
「暗示郎! それより、オロカを癒してやれ! あの出血量だと、ほっとくと死ぬぞ」
「そうだった……」
暗示郎は、倒れたままのオロカに駆け寄った。

 

5.

無数の手が全身を撫で回し、揉みしだく感触──
「は……離せ……や、やめろ……あ、うぅっ……」
横たわっているドグマは脂汗を浮かべ、金縛りにあったように四肢をつっぱらせていた。
「……ぅ……う、あぁっ!」
はっと目を見開くと、薄暗い天井が見えた。
……くそっ、またあの夢か……
ドグマは悪夢の残骸を振り払うように、ぶるっと頭を振った。
いい加減もう忘れたいのに、いつまで付きまとうのだ、マルセルの手下ども……

夢の中では、全く動いてくれなかった手。息を整えながら、毛布の中で開いたり握ったりを繰り返す。
力の入れすぎで少々こわばった腕や足を動かして、ごろんとドグマは寝返りを打った。
「……ん?」
部屋の隅に寄せてある、椅子とテーブル。
椅子のひとつに、エラーが腰掛けている。
ナイフを手首に当てて、躊躇うようにそれを見つめて……
「貴様……この野郎!」
かっと頭に血が登り、ドグマは跳ね起きた。
空いた椅子へ、続いてテーブルへと跳び移り、びっくりしているエラーの頬に拳を叩き込んだ。
「ヒッ……」
「よりによって、三郎のツリーハウスを血で汚そうとは何事だ! この甘え根性め、今すぐ出ていけ!」
「……っ」
殴られた頬を押さえ、エラーは指を突きつけるドグマに涙目を向けた。
涙を見て、ドグマは余計にムカッ腹が立った。
「ゆうべの褒美に、少し物を分けてやれと言うつもりだったが……
もう米粒ひとつやらん! とっとと野たれ死ね!」
「そんな……ひどい……」
エラーは、ぼろぼろと涙をこぼした。
「うっとおしい、泣くな!」
どこかで見た展開だとちらりと考えながら、ドグマは怒鳴りつけた。

「どうしました……」
「なにさ、朝っぱらから……」
三郎と暗示郎が、もぞもぞと身を起こした。
「何だ……むぐぅ」
続いてオロカが起き上がりかけたが、ぐらぐらと眩暈を覚えて、枕に顔を沈めた。
「気持ち悪ぅ……」
「おまえは、血が足りんのだから寝とれ。傷口は塞がっているがな」
テーブルから下りながら、ドグマは言った。

えっ、えっ、とエラーがまだ泣きじゃくっている。
ドグマから事情を聞いて、横になったままオロカが口を開いた。
「殴る事ないじゃないか……かわいそうに。追い出されるのが、よほど嫌だったんだろうに……」
「おまえは寝てろと、言ったであろうが」
「だって、死のうとしてまで……」
「本気で死のうとなど、考えているものか。死にたいなら、人気のない所へ行ってやった方が、確実であろうが。
さしずめ、ちょっと血を流してみせれば、周りが大騒ぎして甘い蜜でなだめてくれるとでも思っているのだろう」
「そーだよ、こいつはそーいう奴なんだよー、さっすがドグマー」
暗示郎が、口を尖らせて同意した。

「でも実際、こいつは一人じゃ……」
「黙れ」
言いかけたオロカの言葉を、ぴしゃりとドグマは遮った。
「なぁ、ドグマ……」
「駄目だ」
「もう少しぐらい……」
「駄目だ」
「そう言わずに……」
「駄目だ」
「でもさ……」
「駄目だ」
「そうは言っても……」
「駄目だ」
「もう一度考え直して……」
「駄目だ」
「あのさ……」
「駄目だ」
「こいつの身にもなってさ……」
「駄目だと言ったら、駄目だ」
「でも……」
「駄目だと言っておろうが」
ドグマがんばれーと、暗示郎は心の中で応援していた。

「……兄上。日が暮れますよ」
「だから何だ!」
溜息混じりに口を開いた三郎の言葉に、噛みつくようにドグマは応じた。
「……妥協案ですが」
どこかで見た展開ですね、と思いながら三郎は言った。
「エラーさん。僕には、もう一人兄がいます。
ここでは無理そうですし……そんなに一人が嫌なら、そちらへ行ってはいかがですか。
あちらの方が、物は豊かですよ。『最果て』に持ち込んだ量も、過ごした年月も、段違いですので」
「……」
エラーはしばらく考えた後、こくりと頷いた。
それを確認してから、三郎は冷たい口調で告げた。
「ただし、連れて行くだけです。置いてくれと頼むのは、自分でやってください。
言っておきますが、イエソド兄さんは貴方のようなタイプには厳しいですからね」
「えー……」
エラーはもの言いたげに、上目遣いで三郎を見た。
「何です?」
「……お……お兄さんなら……口利きをしてくれても、いいじゃない……」
「嫌です」
「どうして……?」
「嫌だからです」
「そんな……」
「拾った子供を引き取ってもらった時には、僕の方から頭を下げましたが……
貴方はもう大人でしょう。自分でなんとかしてください」
「大人じゃないよ……」
「行くんですか、それともこのまま追い出されたいんですか。
いつまでもぐずぐずしていると、兄上に殺されても知りませんよ」
「……」
しばらくエラーは押し黙り、それからしぶしぶと口を開いた。
「……行くよ」
「わかりました」
……よかった、無難に厄介払いできて。野たれ死なれるのも、ちょっと後味悪いもんね。
暗示郎は、ほっと息をついた。
 
 
 
三郎は寝具を片付けて空きスペースを作ると、チョークで床に魔法陣を描いた。
「いいですよ、エラーさん。線を踏まないように入ってください」
「う、うん……」
エラーは恐る恐る、三郎と共に魔法陣の中へ入った。
「バイバーイ♪」
「頑張れよ」
暗示郎とオロカが声をかけた。
「……」
ドグマは何も言わずに、つんと横を向いていた。
『彼方の地は此の地、此の地は彼方の地……』
"テレポート"の長い詠唱が終わると、周囲は真っ白になって見えなくなった。
それも一瞬で終わり、まばたきをすると三郎とエラーは時空船エクリプス号の空き部屋にいた。
若菜をイエソドの元に送るために設置し、その後も何かの時のためにと残してもらった、魔法陣の中だった。
「成功したようですね。では、行きますよ」
「う、うん……」
早足で歩き出した三郎の後を、きょろきょろしながらエラーが追った。

6.

「ちょっと、昨日三郎が仕掛けてた罠、見てくる。
かかってたらオロカ、悪いけどシメるのだけやってね。レバー炒め作ってあげるから」
「おぅ」
舌なめずりしながらオロカが返事をすると、ドグマが口を挟んだ。
「なんだ、まだ慣れとらんのか」
「だってぇ、コワイんだもん」
きゅん、と暗示郎は子犬のようなポーズをした。
「軟弱者め」
「まぁ、しょうがないだろ。苦手なものは誰にだってあるさ」
「……ふん」
「えへっ、行ってきまぁす」
「気をつけろよ」
横になったまま軽く手を振って、オロカは暗示郎を見送った。
 
 
 
ザァァッ……と、風が木の葉を渡る音が、急に大きくドグマの耳に響いた。
ドグマは眩暈を覚えて、壁にもたれた。そのまま、ずるずると床に腰を落とした。
「ドグマ?」
オロカの呼び声も半ば耳に入らず、ドグマは目をかっと見開いていた。
その目には、無数の白い手が映っていた。
ドグマは逃れようと、体をよじろうとした。
しかし、恐怖でがちがちに硬直した手足は動かず、指先がひくひくと痙攣しただけだった。
「体が……動かん……」
「ドグマ? おい、しっかりしろ!」
手は、音もなくすうっとドグマに近づいてくる。
「さ……触るな!」
あるものは彼の体を押さえつけ、あるものは衣服の隙間から潜り込み、ぬるりぬるりと体を撫で回す。
「嫌だ……助けてくれ……嫌だ!」
ドグマは、子供のように悲鳴をあげた。
ハッ、ハッ、ハッと、浅い呼吸を繰り返した。
いくら息をしても、喉に栓でもしたかのように、空気が胸に入ってこなかった。
「く……苦し、い……あ、ぐぅッ……」
冷静さを失ったドグマの頭からは、それが過呼吸という症状だという事も飛んでいた。

見えない敵でも居るのかと、オロカは辺りを見回した。しかし、何の気配も無かった。
「これは……ひょっとして、新兵や負傷兵が起こす、アレか?」
PTSDだの、フラッシュバックだのという用語は知らないオロカだったが、戦場の経験が彼に教えた。
オロカは貧血の気持ち悪さをこらえて毛布から這い出し、ドグマに近寄った。
「触るな……嫌だ……あぁっ!」
「……っ」
その言葉に一瞬躊躇したが、オロカは腕を広げて、ドグマの小さな体を抱きしめた。
震えが、オロカの体に伝わってきた。

「ドグマ、大丈夫だ……何も居ない」
「居る……! 見える……!」
「見える気がするだけだ。ここに居るのは、おまえと俺だけだ」
「手が……! 手が、私に触っているのだ!」
「触れているのは、俺だけだ……ゆっくり息をして……ゆっくりだ……もう一度、確かめてみろ」
「……」
ドグマは目を閉じて、意識的に呼吸のペースを落とした。
すうっ……はぁっ……すうっ……はぁっ……すうっ……はぁっ……
次第に、全身を押さえつけ、撫で回す手の感触がぼんやりとしたものになっていった。
そして、代わりに温かい確かなものを感じてきた。
それは、寝ている時にたびたび自分に抱きついて重苦しい思いをさせる、オロカの腕の感触だった。
「オロカ……」
「ん?」
「いや、構わん……もう少し、このまま……」
「あぁ」
オロカは、ドグマを抱きしめる腕に力を込めなおした。

ドグマは硬直していた手足から、すうっと力が抜けるのを感じた。
そろそろと腕を曲げ、指を曲げたり伸ばしたりした。
目をゆっくりと開けると、オロカの側頭部と、ツリーハウスの室内が見えた。
無数に見えた白い手は、ひとつも見えなかった。
「オロカ……もう、いい」
「そうか」
オロカはドグマの頭の後ろを手で支えながら、床に横たえてやった。
ドグマはぐったりとして、手足を投げ出した。
「大丈夫か?」
「うむ……もう、見えん。体も、動く」
「そうか、良かった」

「少し、疲れが溜まってるんじゃないのか? あんまり、無理するなよ」
「そんな事はない……しかし……今頃になって何故……」
「よく知らんから経験だけで言うけど、そういうのって、直後に来るとは限らないみたいだぞ」
「そうか……」
落ち着きを取り戻すと、ドグマの胸に恥ずかしさが込み上げてきた。
「何にせよ、まぁ……おまえだけで、まだ良かった」
「三郎の前じゃ、強い兄貴で居たいのか?」
「……」
ドグマは、否定はしなかった。
「もうそんな、肩肘張るこた、無いだろうに」
「おまえが平気でも、私に平気でない事はあるのだ」
「それも、そうか……すまん」
「別に……謝る必要などない」
ドグマはツンとした表情を作ったが、何故かそれがオロカには可愛く思えた。
手を伸ばし、ドグマの小さい頭を撫でた。
「子供扱い、するでないわ」
「いや、ごめん……なんとなく、ちょっと」

「うぅ……ん」
ドグマは気だるげに体を少し揺すっていたが、やがて眠りに落ちて行った。
オロカはしばらく、その寝顔を見つめていた。

7.

「──Good Night 数えきれぬ Good Night 夜を越えて
Good Night 僕らは強く Good Night 美しく
儚さに包まれて 切なさに酔いしれて 影も形もない僕は
素敵な物が欲しいけど あんまり売ってないから 好きな歌を歌う──」

イエソドは山羊の乳を絞りながら、THE YELLOW MONKEYの"JAM"を歌っていた。
「──キラキラと輝く大地で 君と抱き合いたい 
この世界に真っ赤なジャムを塗って──」
声と共につい手に力が入って、山羊が「メヘェッ!」と声を出した。
「おっと、ゴメンよ──食べようとする奴がいても──」

「失礼します……」
歌が終わるのを待ってから、三郎はそっと声をかけた。
「おや……」
イエソドは、手を拭きながら振り向いた。
「三郎か。どうしたね、その子は」
そう言って、三郎の影に隠れるように立っているエラーを、首を伸ばして見た。
三郎は、半歩後ずさったエラーの肩をつかんで、自分の前に押し出した。
「わ、わ……」
「彼が、兄さんに用事があるそうです」
これ以上は言いませんよと目に力を込めて、三郎は横目でエラーをにらんだ。
エラーはもじもじと、自分の手をいじっていた。

「何だね」
イエソドが再び問いかけ、エラーがやっと口を開いた。
「こ、ここに置いてください。行くあてが、ないんです……」
「どうしてだね?」
「ど、どうしてって、言われても……」
「そりゃあ、聞くよ。どうしてだい?」
「ひ、一人じゃ、生きていけないから……どうか、た、助けてください」
「何故、一人では生きられないんだね?」
「何故って……さ、寂しいし……」
「それだけかね?」
「ぼ、僕、町中でしか暮らした事なくて、こんなところじゃ……」
「試しに、何かしてみたのかね?」
「し……してないけど……」
「何故、しないのかね?」
「何を、どうしたらいいのかも、わからなくて……」
「必要になったものから、やっていけばいいんじゃないかね?」
「そ、それはそうだけど……僕はなんにも、できないし……」
「どうして、やってみる前からわかるんだね?」
「そ、それは……あ、うぅぅ……何も、やり方を知らないし……」
「知らなくても、いろいろ試行錯誤してやっていくもんじゃないのかね?」
「ぼ、僕にはできないよ……」
「だから、どうしてやる前からだね……」

しばらく同じような質問をイエソドは繰り返したが、エラーは「わからない」だの「できない」だのと言うばかりであった。
イエソドは溜め息をついて、話を切り替えた。
「それじゃ、質問を変えるけど。どうして、三郎達のところではいけなかったのかね?」
「き、嫌われちゃったから……」
「何故?」
「わ、わからないよ……」
「間違っててもいいから、推測してごらん」
「あ、暗示郎という人には、なんだか、良くわからないけども、僕は何も悪い事をしていないのに最初から凄くキツく当たられて……」
何、被害者ぶってるんですか、と三郎は目を細めてエラーを見やった。
「ふぅん、そう。
私はその子の事はほとんど知らないけど、そんなキツそうな子には見えなかったけどねぇ……三郎には?」
「や、やっぱりわかんないけど……
最初から、『この人は厄介そうだから深入りしないようにしよう』と、警戒心を持たれてるような……
ぼ、僕は何も悪い事してないよ? なんか勝手に、そう思われちゃっただけだよ……?」
……あぁ、そうですよ。良くわかりましたね、褒めて差し上げます。
三郎は、心の中で皮肉を言った。
「ふふん。まぁ、三郎にはありそうな事だね。ドグマは?」
「今すぐ、出ていけって……米粒一つやらない、野垂れ死ねって……僕にひどい事を……」
「どうして? そんな事を言われるきっかけは、何かあったのかい?」
「うっ、そのぅ……あの……」
エラーは口ごもった。
「兄上が言うには、手首を切ろうとしていたらしいですね」
三郎が口を出すと、エラーは小さく縮こまった。
「あぁ、ドグマはそういうの大嫌いだね。わからなかったのかい?」
「う……うーん……」
「オロカ君は?」
「同情してくれたみたいで、説得してくれようとしてたみたいだけど……
なのにドグマが、全く聞く耳を持ってくれようとしなくて……」
「同情『してくれた』んだ……ふぅん……そう……」

「つまり、君は私に同情して欲しいんだね? 甘やかしてほしいんだね?」
イエソドがエラーを見据えて言うと、彼はぷるぷるぷると首を横に振った。
「そっ、そんな事言っては……」
「言ってはいないが、思ってるんだね?」
「ち、ちが……」
「言っておくが、ここにはたくさんの子供達がいるけども、養護施設じゃないからね。
子供達にも、年齢や適正に応じた仕事をそれぞれ、してもらっている。
君がここで暮らしたいというなら、君が一番年上なのだから、一番きつい仕事をやってもらうよ?
面倒みられるんじゃなく、面倒をみる立場になってもらわねば、困るからね?」
「えー……」
「えー、とは何だい。朝、暗いうちから起きて、バリバリ農作業をしてもらうからね」
「ぼ、僕そんな事できないよ……」
「だからなんで君は、やってもいないうちからできないと言うんだね」
「だ、だって、だって、農作業なんてした事ないし……」
「した事ないなら、やってみなければできるかどうか、わからないだろう?」
「や、やらなくてもわかるよ……力いりそうだし、きつそうだし、臭そうだし……僕には、とても……」
「あぁ、力は要るよ。きついよ。臭いよ。だから何だね。
他人任せにして、美味しい汁だけ吸いたいとでも言うのかね?」
「そ、そんな事は……」
「違うというなら、どうしたいんだね。言ってごらん?」
「……」
「黙ってちゃ、わからないだろう?」

「うわぁぁぁぁぁ……ッ! あぁぁぁぁぁッ……!」
エラーが地面にへたり込んで、大声で泣き出した。
「やれやれ……この子とは、かなり時間をかけて向き合わなくちゃいけなさそうだねぇ……
まぁ、ずっとかどうかはまだわからないが、しばらくは居てもらおう」
「毎度毎度、面倒を押し付けて申し訳ありません……」
三郎が頭を下げると、イエソドはにっこりと笑った。
「いや、いいさ。この子は『破』だ。『和』の君達とは、馬が合わなくても仕方ない」
「……そうなのですか?」
「うん、私の目に狂いがなければね。
ところで、君はどうする? 泊まっていっても、帰ってもいいけど?」
「それでは、帰らせていただきます。あ、これはお裾分けです。よかったらどうぞ」
三郎は、手製のドライフルーツが入った袋を差し出した。
イエソドは受け取った袋の口を開けて、嬉しそうな顔で頷いた。
「いい香りだ、ありがとう。君達は、何か欲しいものあるかい?」
「暗示郎が、バターとミルクが欲しいと言っていましたが」
「いいよ、山羊のだからちょっと匂いに癖があるけど、それでよければ持ってお行き」
「ありがとうございます、助かります」

「行かないでよぉぉッ!」
涙をぼたぼたとこぼしながらエラーが這いより、三郎のコートの裾にすがりついた。
「……離してください」
「置いてかないでよぉぉッ! この人は嫌だぁぁッ!」
「僕のこと、二人の兄よりかは御しやすいとでも、思っています?」
三郎はエラーの足を踏みつけ、力が緩んだ隙にコートを強く引いて、手を振り払った。
「痛い……ひどい……」
「申し訳ありませんが、僕も貴方の事は好きじゃありません。
これ以上、貴方の面倒を見るいわれはないんです」
がしっと、イエソドがエラーの肩をつかんだ。
「まぁまぁ、嫌とか言わず、じっくり話し合おうじゃないか」
「いやぁぁぁぁッ!」
「……失礼します」
三郎は帽子をとって一礼すると、エクリプス号に向かって歩いて行った。
 
 
 
三郎がツリーハウスに戻ると、オロカとドグマが並んで横になっていた。
「兄上は、どうかされたのですか?」
「う、うーん」
問われたオロカは迷った後、口を開いた。
「俺からみれば、たいした事じゃない。そんなに心配はいらないと思う。
でも、口止めされたわけじゃないが、おまえには知られたくないんじゃないかな」
「……」
三郎は、ドグマの寝顔を覗き込んだ。
安らいだ表情で、すやすやと静かな寝息を立てていた。
「そうですか、わかりました」
「悪く思わないでくれよ」
「そのくらいで機嫌を損ねるほど、僕は子供ではありませんよ」

「ご飯できたよー♪」
外から、暗示郎の呼ぶ声がした。
「はい、今行きます」
「あ、三郎意外と早かったね。おかえりー」

第7章「束縛のリトルエンペラー 」>>

 
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